内田樹(晶文社)
知性的というのはこういう人のことを言うんだろうなぁ。
講演集とは思えないくらい、原稿がないのが信じられないくらい、
中身が濃くて深くて多彩。
一度だけ講演を聴いたことがあるので、
その風呂敷の広げ方も、畳み方も、目の当たりにしたのだけれど。
「資本主義末期の国民国家のかたち」を読んで、
"対米従属を通じての対米自立"の意味がやっとわかりました。
現政権与党のこの矛盾がどこから来ているのかずっと理解できなかったのです。
"国家主権と国土を回復する"という目標なんて持っていない。
そんな夢から私たち日本人は醒めることができるだろうか。
でも、そのときにコミュニケーションの力というのは、こういう状況を切り抜ける力のことなのだと思いました。ふつう、コミュニケーション能力というと、自分の言いたいことをはっきりと述べて、相手に伝えることだと思いがちですけれど、僕は違うと思う。そうではなくて、コミュニケーション能力というのは、コミュニケーションが成立しなくなった局面を打開する力ではないかと思うのです。意思の疎通ができなくなったときに、その難局から脱出する能力。途絶してしまったコミュニケーションを再開する能力、断絶に架橋する能力、それをコミュニケーション能力と呼ぶのではないか。
(「ことばの教育」より)
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